症例報告

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徐放性オクトレオチド投与により良好なコントロールが得られたインスリーマの犬の1例

2015年、第17回 日本臨床獣医学フォーラム年次大会のポスターセッションにて優秀賞を受賞しました。

はじめに

膵臓腫瘍のうちβ細胞由来のインスリノーマは、中型犬や大型犬に多く発生し、過剰なインスリン分泌による低血糖症に関連した神経症状などの臨床症状の発現が認められる。治療の第一選択は原発腫瘍の外科的切除であるが、様々な内科療法も単独または外科療法と併用して行われている。
今回CT検査および試験開腹を行うも、原発腫瘍を確認することができなかったが、オクトレオチド徐放性製剤(サンドスタチン®LAR ®筋注用10mg、ノバルティスファーマ)を主体とした内科療法のみで良好な経過を示した症例を経験したので報告する。

プロフィール

○11歳齢 避妊雌 ボーダーコリー

主訴 ○全般強直間代発作
ヒストリー
○現病歴:
本日から
○既往歴:
内科疾患 僧帽弁閉鎖不全症
外科疾患 左右前十字靭帯断裂 直腸腺癌切除 舌線維肉腫切除

身体検査所見

  • 体重18.4kg 体温38.4℃ 心拍数96/min パンティング呼吸状態 BCS 3/5
  • 来院時発作は認められなかった

治療と経過

○入院中血糖値の推移(下図)

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○試験開腹時 膵臓(下図)

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○退院後フルクトサミン値の推移(下図)

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  • 第2病日に再び発作が認められたためペントバルビタール、グルコースの点滴、プレドニゾロン1mg/kg s.c.を開始した。第3病日、ペントバルビタールCRIの休止後も発作は認められなかったが、血糖値の上昇は認められなかったためグルカゴン 0.3μg/kg/hr CRIを開始した。
  • グルカゴンを増量しても血糖値は上昇せず、第10病日にオクトレオチド 20μg/head s.c. TIDを併用したところ血糖値の上昇が認められた。
  • 第12病日にCT、MRI、脳脊髄液検査を実施したが異常所見は認められなかった。
  • 第26病日、メチレンブルー点滴下にて試験開腹を実施したが、腫瘍病変および異常所見は発見できなかった。膵右葉の生検による病理組織検査所見は「腫瘍組織は認められず初期の結節性過形成」であった。
  • 第27病日よりジアゾキシド 5mg/kg p.o. BIDを開始し、グルカゴン、オクトレオチドを漸減、休薬したところ血糖値が低下したため、第31病日にオクトレオチド徐放性製剤5mg/head の筋肉内投与を行い、同時にジアゾキシド 7mg/kg p.o. BIDに増量した。オクトレオチドおよびジアゾキシドの両剤投与を開始後は血糖値が安定し臨床症状も認められなかったため、第41病日に退院した。
  • オクトレオチド徐放性製剤を第57病日より7.5mg/head,第113病日より10mg/headに増量した。
  • 第337病日に再度CT検査を実施したが異常所見は認められなかった。第366病日の現在もオクトレオチド徐放性製剤10mg/head i.m. q4week、ジアゾキシド7mg/kg p.o. BIDで良好な経過を辿っている。

臨床検査所見

CBC CHEMISTORY
RBC(×106/μl) 8.81 WBC(/μl) 7870 TP(g/dl) 6.3 BUN(mg/dl) 19
Hb(g/dl) 19.9 Band-N 0 Alb(g/dl) 3.3 Cre(mg/dl) 0.9
PCV(%) 55.9 Seg-N 6030 Glb(g/dl) 3.0 (UN/Cre) 21
MCV(fl) 63.5 Lym 1240 (A/G) 1.1 CK(U/l) 74
MCH(pg) 22.6 Mon 560 ALT(U/l) 104 P(mg/dl) 4.0
MCHC(%) 35.6 Eos 30 AST(U/l) 118 Ca(mg/dl) 8.7
Plat(103/μl) 317 Bas 0 ALP(U/l) 181 Na(mmol/l) 156
特殊検査 GGT(U/l) 2 K(mmol/l) 4.6
インスリン(pmol/l) 138 Tcho(mg/dl) 158 Cl(mmol/l) 114
AIGR 179.4 Tbil(mg/dl) 0.2    
TBA食前(μmol/l) 1.8 Glu(mg/dl) 61    
TBA食後1時間(μmol/l) 26.4 NH3(μg/dl) 0    
TBA食後2時間(μmol/l) 14.5        
  • 胸腹部X線検査 : 異常なし
  • 腹部超音波検査:異常なし

診断

インスリーマ

主治医の意見

インスリノーマを疑う場合、試験開腹によって腫瘍の確認、病期の決定、および目視できる腫瘍組織の除去などが理想的な診断および治療手順となる。しかし、本症例は、CT検査、超音波検査、試験開腹(メチレンブルーの点滴注入を併用)によっても膵臓に肉眼的病変を発見できなかったため、各種臨床検査および除外診断によりインスリノーマと診断した。
内科療法単独で治療した症例と外科療法を行った症例の中央生存期間は明らかに外科療法群の方が長いが、本症例は肉眼的病変を確認できなかったため、内科的保存療法が唯一の治療選択肢であった。インスリノーマの内科療法にはコルチコステロイドをはじめとした様々な方法が報告されているが、本症例はコルチコステロイドによる血糖値の上昇効果は不十分であった。人医領域における徐放性オクトレオチドによるインスリノーマに対する治療報告例が、外科療法不適用(患者の拒否も含めて)の患者に対しての有効性が認められている。徐放性オクトレオチドによる犬のインスリノーマに対する治療報告は、これまでほとんどなされていないが、今後は小動物領域においても有望な内科療法薬となる可能性が示唆された。